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ダニの恐怖|米オレゴンで全身麻痺に陥った犬「オリー」の奇跡

ダニの恐怖|米オレゴンで全身麻痺に陥った犬「オリー」の奇跡

割と有名なクイズですが「世界で人間を最も多く殺している生物は?」の回答は、蚊。年間で約72万〜100万人もの命を奪っているとのことで、完全な虐殺レベルです。主な原因は、もちろん直接ではなくマラリアやデング熱などの感染症の媒介によるもの。

一方で、ダニ(tick)はこのランキング上位には入っていません。WHOやビル&メリンダ・ゲイツ財団などがまとめるTOP20では、ダニは圏外(20位以下)。

ただ、ダニもライム病や回帰熱、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)などの重篤な感染症を媒介し、局地的には致死的な被害を出す場合があります。数が少ないからと言ってナメてはいけないのです。

オレゴンで実際に起こったシェトランド・シープドッグ「オリー」の事例

元気な犬を突然襲った異変

2016年。ポートランド近郊に住むシェトランド・シープドッグのオリー(Ollie)は、10歳になるまで病気ひとつしない健康な犬でした。

ところがある日、飼い主のアル・メテニーさん夫妻と一緒にオレゴン州アンプクア川の近くへキャンプに行った後、帰宅して間もなく体調が急変。

動きが鈍くなり食欲を失い、自力で歩くことができなくなったのです。最初はただの疲れだと思われましたが、日を追うごとに症状は悪化。どんなに大好きなごはんを手で与えても、オリーはほとんど口にしなくなりました。

動けなくなっていくオリー

次第にオリーは立ち上がることができなくなり、排泄もできないほど麻痺してしまいました。アルさんと妻のジョエルさんは複数の獣医に診てもらいましたが、どの医師も原因を突き止められません。

彼らは「もう助からないのではないか」と深い悲しみとともに思い詰め、これ以上は苦しめたくないと、ついに愛犬を安楽死させることを決めたのでした。

安楽死直前に見つかった命の手がかり

ポートランドのドーブルイス動物病院(DoveLewis Animal Hospital)で安楽死の準備が進む中、見習いの獣医学生ニーナ・ゴールデンさんが、オリーの耳の後ろを優しくなでて慰めていました。そのとき彼女は小さな「しこり」を指先に感じます。それがダニでした。

担当医のアダム・ストーン獣医師は「ダニ麻痺症(tick paralysis)」という、特定のダニの唾液が体内に入ると神経系に影響を及ぼし、全身の麻痺を引き起こすことがあるという稀な病気のことを思い出します。

この病気は珍しく、医師も「教科書で一枚のスライドで学んだことがあるだけ」だったそうな。見習いのニーナさん、マジでGood Job。完全に命の恩人です。

奇跡の回復

病院では憎きダニを取り除いた後、オリーの体を丁寧にシェービングして他にダニがいないか確認。ストーン医師によると、もし本当にダニ麻痺が原因なら数日以内に徐々に回復するはずだと見ていました。

すると、なんということでしょう。安楽死を決めてからわずか10時間後、その夜のうちにオリーは自分の足で立ち上がり、ゆっくりと歩き出したのです。

オリーは再び元気を取り戻し、外で遊べるほどに回復。この出来事はアメリカ中のニュース番組や雑誌でも大きく報じられました。

ダニ麻痺症の基礎知識と予防策

ダニ麻痺症

犬のダニ麻痺症は、マダニが神経毒を注入することで発症。この神経毒により、犬はふらつきや麻痺の症状が現れます。マダニは野山や草むらなどに多く生息しており、犬がそうした場所で遊んだり散歩したりする際にマダニに咬まれることで感染することがあります。

日本での発症例

日本においても、発症例は比較的少ないものの存在しています。特に北海道を中心にダニ媒介性の感染症が報告されており、道南地域ではマダニがウイルスを保有していることが確認されているとのこと。

また富山では2頭が「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」に感染した例も報告されています。このSFTSはマダニを介して感染する重篤な感染症で、これらの地域ではマダニの危険性への注意が呼びかけられています。やはり散歩以外は、山など行かない方がいいかも。

症状と危険性

ダニ麻痺症では、初期には咬まれた箇所の赤みや腫れが見られ、その後、体のふらつき、運動障害、最悪の場合は呼吸困難や死亡に至ることも。

症状が進むと神経系に影響が及ぶため、迅速な対処が必要です。様子見なんてしてもいいことないです。特に、特効薬がないため早期発見とダニの除去、適切な治療が必須。

予防策

まず、マダニの生息場所を避けることが基本。草が多い場所や山林などでは、マダニ忌避剤や駆除薬(スポットオンタイプや首輪型など)の使用が推奨されます。散歩後は犬の体をよくチェックし、マダニが付着していれば速やかに病院で取り除いてもらいましょう。

「犬を売らない町」オレゴンの文化と動物愛護の実情

犬を売らない町

オレゴン州ポートランドは「全米一住みたい街」として知られていますが、その特徴の一つに「ドッグフレンドリータウン」という点があります。街を歩くと多くの犬と出会いますが、その大半が保護犬。

州内には多くのドッグパークがあり、犬と一緒に入れる飲食店も多く、スーパーには犬用の待機エリアや水場が用意されているほど。クレーム大国の日本では不可能ですね。

ペットショップが犬を売らない理由

ポートランドに限らず、オレゴン州内ではペットショップでの生体販売は20年以上前からほとんど見かけなくなりました。これは法律の規制ではなく、住民の意識の変化が大きな要因。アメリカって凶暴な人ばかりだと思っててごめんなさい。

ここでは、ペットショップは生体販売ではなく地元の動物保護団体と連携し、週末に店内で犬の譲渡会を開催するスタイルに切り替えています。

保護犬と新しい飼い主のつながり

保護団体では、譲渡会前に予防接種や治療、避妊・去勢手術、マイクロチップの装着などを行い、犬たちの健康管理を徹底。譲渡費用は約150~350ドルですが、それだけでは運営が厳しいためペットショップからの援助やペットフードの寄付も重要です。

譲渡会に訪れる人は一度に多くの保護犬と面会でき、飼育に詳しいスタッフから犬の性格や生活リズムを聞くことが可能。また譲渡後も、しつけや食事についての相談ができるサポート体制が整っています。

譲渡の際には「生涯飼育」が条件とされ、飼えなくなった場合は信頼できる新しい飼い主を探すか保護団体に戻す誓約が必ず交わされます。

動物愛護精神が根付いた社会

ポートランドの動物愛護は、単なるルールではなく「犬たちが家族として一生大切にされるべきだ」という強い意識によって支えられています。

放棄や無責任な飼育が許されない文化が確立しており、地域全体が犬の幸せと適正な飼育を願って保護団体と住民、店舗が協力しあうことでこの文化が維持されています。

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