150年の歴史の中でメジャーリーグでプレイした選手は、およそ2万人くらい。そして、2025年1月までに殿堂入りしたのは351名。全体の約0.001755%です。この中には監督や審判として受賞した人も含まれます。
対して年末ジャンボの1等に当たる確率は2000万分の1で、例えると10kgの米38袋のうちの1粒くらい。0.00000005%です。数字だけ見ると、米野球殿堂入りの方が簡単…というより宝くじを買う人の頭の悪さが際立ちますね。
何の話かというと、イチロー氏が米野球殿堂入り、しかも資格初年度での選出という快挙を成し遂げました。まぁ別に驚かないというか、彼なら当然取るでしょうという感じではありますが、そもそも米野球殿堂入りってどうやったら選ばれるんでしょうか?と疑問が。
そこで今回は、米野球殿堂入りの条件をわかりやすく調べてみました。
★ もくじ
米野球殿堂入りの基本条件、3つの関門
10年以上のメジャーリーグ経験が必須、短命な野球人生には厳しい
まずひとつめは、メジャーリーグで10年以上プレーする必要があります。これ実際には単なる数字以上の意味があり、10年という期間は選手の実力とその継続性を証明しています。10年にわたり成績を維持しないとマイナーに落とされるから。
例えば、イチロー氏は2001年から2019年まで19年の間、メジャーリーグでプレーしました。その間、3000本安打や262安打といった偉業を成し遂げ、常に高いレベルでプレーし続けたんです。
ちなみに2001年といえば、スペインで活躍するサッカー選手、久保建英選手が生まれた年。
で、メジャーリーグの平均選手寿命は約5〜6年。つまり、殿堂入りの資格を得るだけでも、平均の倍近くキャリアを続ける必要があるんです。
怪我や不調で早々に引退を余儀なくされた選手たちは、どんなに才能があっても殿堂入りの夢を諦めざるを得ないわけで、この条件だけで多くの選手が振り落とされてしまうんですね。
引退後5年以上の経過が必要、熱狂を冷ます"クールダウン期間"
選手が引退してから5年以上経たないと、殿堂入りの候補にはなれません。というのも、引退直後はその選手の人気や最近の活躍が評価に影響しやすい。でも5年経てば、その選手のキャリア全体を冷静に評価できるようになります。
この"クールダウン期間"があることで、一時的な人気や感情に左右されない、公平な評価ができるんです。なので、ある選手が引退シーズンに素晴らしい成績を残したとしても、それだけで殿堂入りが決まるわけではありません。
5年間の時を経て、その選手のキャリア全体を見直す機会が与えられるのです。
75%以上の得票率が必要、厳しすぎる選考基準
殿堂入りするためには、全米野球記者協会(BBWAA)に10年以上所属している記者全投票数の75%以上の得票を得る必要があります。
例えば、400人の記者が投票したとすると300人以上から支持を得なければならないということ。でも多くの選手にとって、この75%の壁は高い。
例えば史上4人目の「通算3000安打&500本塁打」を達成、4度のオールスター選出、3度のゴールドグラブ賞、2度のシルバースラッガー賞を獲得したRafael Palmeiro(ラファエル・パルメイロ)は、ステロイド使用疑惑のために殿堂入りを果たせていません。
また、史上最多となる762本の通算本塁打記録を持ち、通算安打数2935、盗塁514個、MVP7回に40-40まで達成したBarry Bonds(バリー・ボンズ)も、同様の理由で選出されていないんです。
つまり単に成績だけでは殿堂入りは難しく、選手としての姿勢や評判も重要な要素になっているんですね。
殿堂入りの選考基準、5つの秘密の評価ポイント
スポーツマンシップと人間性が重要、グラウンド外の評価も
米野球殿堂入りの選考では、単に野球の技術だけでなく選手の人間性も重要な基準になります。スポーツマンシップを体現し、フェアプレーの精神を持っているかどうかが問われるのです。数値化しにくいので難しい基準でもありますが。
例えばTy Cobb(タイ・カッブ)は、技術面では間違いなく殿堂入りレベルの選手でした。しかし「最高の技術と最低の人格」「メジャーリーグ史上、最も偉大かつ最も嫌われた選手」と称されるほど人種差別的な言動や乱暴な性格で知られていました。
結果的に彼は殿堂入りを果たしましたが、投票率は76.4%と、ぎりぎりのラインでした。一方で、Jackie Robinson(ジャッキー・ロビンソン)は人種の壁を破った功績も評価され、引退後わずか5年で殿堂入りを果たしています。
毎年4月15日、選手全員が彼の背番号42を付けて試合をする日「ジャッキー・ロビンソン・デー」を設定されるほどリスペクタブルな選手です。
野球界への影響力も評価対象、革新的プレーや文化的貢献も重要
球界全体にどれだけ影響を与えたかも、重要な評価ポイント。これは、単に試合での活躍だけでなく、野球文化や次世代の選手たちへの影響力も含まれます。
例えばBabe Ruth(ベーブ・ルース)はホームランを主体とした新しい野球スタイルを確立、野球の人気を爆発的に高めました。
また、技術面での革新も高く評価されます。例えばMariano Rivera(マリアーノ・リベラ)は、カッター(Cut Fastball)という新しい変化球を武器に、クローザーをスターにしました。
記録や統計だけじゃない、"目に見えない貢献"も
もちろん3000安打や500本塁打といった大記録は、殿堂入りの有力な根拠になります。でも、それだけじゃなく記録的な派手さに欠けるけど…という "目に見えない貢献" も重要な評価ポイント。
例えばOzzie Smith(オジー・スミス)は、打撃成績は普通。でも13年連続のゴールドグラブ賞や補殺数8375のメジャーリーグ記録を持つ素晴らしい守備で、チームに大きな貢献をもたらしました。
カージナルスの元監督、Whitey Herzog(ホワイティ・ハーゾグ)は「オジーは(守備で)毎シーズン何勝か上積みしてくれた」と評価しています。この "目に見えない貢献" が評価され、スミス氏は2002年に殿堂入りを果たしました。
また、チームの "精神的支柱" としての役割も重要。Derek Jeter(デレク・ジーター)は、統計的には他の殿堂入り選手に劣る部分もありましたが、ヤンキースのキャプテンとしてチームを何度も優勝に導きました。
時代を超えた評価、セイバーメトリクスの登場で再評価も
野球の評価基準は時代とともに変化しています。特に近年、セイバーメトリクスという新しい統計学的手法が導入されて、昔の選手の価値が見直されることがあるんです。
セイバーメトリクスとはデータを統計学的な観点から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える手法。
従来の打率や防御率といった基本的な統計に加え、総合的な攻撃力を示すOPS(出塁率と長打率の合計)や、選手がチームにもたらす価値を数値化したWAR(代替選手に対する勝利貢献度)などで、野球をより客観的に分析します。
実際、現役時代はそれほど注目されていなかったBert Blyleven(バート・ブライレブン)は、セイバーメトリクスの観点から彼の投球を分析すると実は非常に価値の高い選手だったことがわかり、2019年に殿堂入りを果たしました。
逆に昔は高く評価されていた選手が、新しい指標では評価が下がることも。例えば打点や勝利数といった従来の指標は、チームの強さに左右されやすいため、個人の能力を正確に反映していないという指摘もあります。
特別委員会による選考、見落とされた才能を救済
通常の選考プロセスとは別に、特別委員会による選考も行われています。これは、通常の選考では見落とされがちな選手や、特殊な状況にある選手を評価するためのものです。
例えば黒人選手の大リーグ参入が制限されていた時代に活躍した選手たちを評価する「ニグロリーグ委員会」などがあります。
この特別委員会のおかげで、Satchel Paige(サッチェル・ペイジ)のような伝説的な選手が殿堂入りを果たしました。彼が生きたのは人種差別の激しい時代だったため、メジャーリーグでプレーする機会がほとんどありませんでした。
でもニグロリーグでの彼の活躍は、メジャーリーグの選手たちも認めるもの。特別委員会は、こういった特殊な状況を考慮して彼を殿堂入りにふさわしいと判断。
また、引退後15年以上経過した選手を対象に、「時代を超えた委員会」という特別な選考も行われています。これは、引退当時は評価されなかったけど、時代が変わって再評価された選手を救済するためのものです。
満票での殿堂入りは非常に難しい
満票での殿堂入りを果たした選手
殿堂入りの中でも、特に注目されるのが "満票" での選出。だがしかし、これまで満票で殿堂入りしたのは、2019年のMariano Rivera(マリアーノ・リベラ)のみ。
リベラはクローザーとして史上最多のセーブ数を記録、ポストシーズンでの活躍も群を抜いていました。彼の切れ味鋭いカッターは、バッターを悩ませ続けました。
でも野球の神様と呼ばれたBabe Ruth(ベーブ・ルース)でさえ、得票率は95.1%。このように満票での殿堂入りは非常に難しく、伝説的な選手でさえも達成できていない偉業なのです。