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映画レインマンのモデルは?──3分でわかる障害の特徴と実話

映画レインマンのモデルは?──3分でわかる障害の特徴と実話

映画「レインマン」って40年近く前の作品ですが、いわゆる名作のひとつなのでアンダーフォーティでも観た人は多いでしょう。ダスティン・ホフマンって今じゃもう、すっかりおじいちゃんですね。

なお病気と障害は混同されがちですが、別ものです。身体や心に異常が生じるものが病気。病気や事故のほか、生まれつきの要因などで機能が低下している状態が、障害。

わかりやすく言えば、基本的にだけど「治す」対象なのが病気、「属性」として捉えられるのが障害です。

レインマンの実在モデルと神がかった能力

キム・ピークが持っていた2つの特性

映画の主人公レイモンド・バビットのモデルとなったキム・ピーク氏は、自閉スペクトラム症とサヴァン症候群を併せ持つ人物。彼の脳はハイスペックなコンピューターのように、信じられない能力を持っていました。

本をスキャンするような記憶術

生後18ヶ月、つまり満1歳半で本の内容を完全に暗記し始め、最終的には9,000冊以上の本を記憶。1ページを8~10秒で、読むというより見るように記憶、読み終わった本は上下逆さまにして本棚に並べるのが習慣でした。

例えばトム・クランシーの小説『レッドオクトーバーを追え』(オリジナル版は387ページ)を1時間25分で読み切り、4ヶ月後でも登場人物の詳細な情報を完璧に再現できたといいます。

脳内Google検索のような情報処理能力

アメリカ全土の幹線道路、市外局番、郵便番号を完全記憶し、特定の都市をカバーするテレビ局名も即答できました。誰かが誕生日を言うと、過去から未来の曜日を瞬時に計算、65歳の定年時の曜日まで正確に答えられました。

音楽に関しては曲名だけでなく、作曲者の生年月日や初演日まで暗記していました。クイズ王で天下取れますね。そういえばドラマ版ドラゴン桜2で細田佳央太さんがやってたのが同様の障害がある役で、東大合格してた。

左右の目で別々のページを読む特殊技能

脳の左右をつなぐ脳梁が生まれつきないという特徴を活かし、左目で左ページ、右目で右ページを同時に読み進めることができました。この並列処理能力が、通常の数百倍の速さで情報を吸収する秘訣だったと考えられています。これ、仕組みが量子コンピュータじゃん。

日常生活とのギャップ

IQは87と平均よりやや低く、シャツのボタンを留めるのも困難なほど不器用。なので父親の介助なしでは生活できませんでしたが、ユーモアあふれる人柄で周囲を魅了し、世界中で講演活動を行いました。

2009年に58歳で亡くなるまで、9,000冊を超える脳内図書館は決して消滅しませんでした。暗記はものすごいけど創造ができないってことですかね。

サヴァン症候群と自閉スペクトラム症の関係

サヴァン症候群とは

サヴァン症候群とは、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害や知的障害を持ちながら、特定の分野で非常に優れた能力を発揮する状態のこと。

たとえば記憶や計算、音楽、芸術などで、普通の人ではとうてい及ばないほどの才能を見せる人がいますが、キム・ピークもこうしたサヴァンと呼ばれる人々の代表的な例です。名前の由来は、フランス語で学者や学識人を意味する「savant(サヴァン)」から。

サヴァン症候群と自閉スペクトラム症の関係

自閉スペクトラム症は、対人関係が苦手だったり強いこだわりを持つといった特徴を持つ発達障害の一つ。サヴァン症候群の人は、ASDの特徴を持っていることが多いですが、必ずしもすべてのASDの人がサヴァン症候群になるわけではありません。

サヴァン症候群の多様性

サヴァン症候群の特徴や症状、能力の発達の仕方は人によって大きく異なります。記憶や計算が得意な人、音楽や絵画など芸術分野で才能を発揮する人、特定の分野の知識にとても詳しい人など、さまざまなタイプがいます。

また、こうした突出した能力を生かして社会で活躍する人もいれば、日常生活で困難を抱える人も。

脳科学が解明する「天才」の秘密

キム氏の場合は「超記憶」と「暦計算」の能力が突出。生年月日を聞くだけでその日の曜日を即答できる「カレンダー計算」は、映画でも重要なシーンで使われています。

神経心理学的には側頭葉の過活動と前頭前野の機能異常が組み合わさり、通常とは異なる認知パターンを形成。1分間に1万字を読む速読能力は、文字を写真のように記憶する「直感像記憶」によるものと分析されています。

現実と創作の部分について

現実に基づいたサヴァン症候群の描写

原作者のバリー・モローは、テキサスで出会ったキム・ピークからインスピレーションを受けて制作。キムは電話帳の内容を暗記し、歴史の出来事を完璧に答える能力を持っていましたが、映画では彼の特徴に加え、別の症例の能力も組み込まれています。

例えばレイモンドがカジノでカードの動きを記憶するシーンは、実際のサヴァン症患者の能力を参考にしたと言われています。

ちなみにレイモンドが絶対に道を間違えないという設定は、サヴァン症の一般的な特徴ではなく、物語を盛り上げるための創作要素ですた。

ダスティン・ホフマンの役作りの秘密

ダスティン・ホフマンはレイモンド役を演じるため、数か月かけてサヴァン症候群の患者と直接会い、行動や話し方を研究しました。特に瞬時に複雑な計算ができるジョゼフ・サリヴァンという男性の動作を参考にし、指先の動きや視線の定め方まで真似たそうです。

ホフマンは「役に入り込むために、撮影中はずっとレイモンドになりきっていた」と語り、食事のシーンでも同じ動作を繰り返すなど、細かいこだわりを見せました。

当初、ホフマンは弟役のオファーを受けていましたが、自らレイモンド役をやりたいと熱望、スタジオを説得したエピソードも有名。彼の姿勢は、アカデミー主演男優賞受賞という結果につながりました。

映画公開後の影響

レインマンが残した社会的影響

1988年の公開当時、自閉症の認知度が飛躍的に向上。アメリカ自閉症協会への寄付金が3倍に増加するなど、社会意識に大きな変化をもたらしました。

あと興味深いのは、キム氏自身が映画公開後に変化した点。人との交流を楽しむようになり、20年間で300万人と握手したというエピソードも。

しかし「自閉症=天才」という誤解も生んでしまいました。実際にはサヴァン能力を持つ人は、自閉症の10%未満という調査結果があるようで。

近年では神経多様性の概念が広まり、キム氏のような特性を「障害」ではなく「個性」と捉える動きが加速しています。

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