
組織内の不正行為を暴露する内部告発者は、英語で「ホイッスルブロワー(whistleblower)」といいます。つまり笛を吹く人です。
米国の市民活動家ラルフ・ネーダーが1970年代初頭にこの用法を普及させたと言われており「密告者」という怪しげな言葉をもう少し歪曲的な表現に置き換えることを目指して作られたそうです。
でも笛って音がデカいし、音色もカンにさわるモノなわけで、こっそりバラすイメージとは違う気がするんですが。
昔むかし昭和の頃、大企業の不正を告発したことで31年ものあいだ孤独に闘い続けることになった串岡弘昭さんという方がおりました。彼が勤めていた会社はどこなのか、どんな仕打ちを受けたのか、そして現在はどうしているのか。
彼の勇気ある行動と、それに対する会社の驚くべき対応、そして長年の闘いの結末まで調べてみました。
★ もくじ
串岡さんが内部告発した会社の正体
トナミ運輸、富山県の大手運送会社
串岡さんが内部告発したのは、富山県高岡市に本社を置く大手運送会社「トナミ運輸」。この会社は北陸地方を中心に事業を展開する老舗の運輸会社で、地元の経済に大きな影響力を持つ企業として知られています。
串岡さんは、この会社に長年勤務する中で、業界の闇ともいえる重大な不正を発見します。ちなみに高岡市は、あのドラえもんの作者である藤子不二雄A氏の出身地です。
運輸業界のヤミカルテルを暴露
串岡さんが告発したのは、運輸業界にはびこっていた闇カルテルの存在でした。
カルテルというのは、同じ業種の複数の企業が競争を避けるため価格や生産量などの事業活動に関して悪の協定を結ぶこと。運送業界の場合は、運賃や配送ルートを不当に操作することで利益を上げます。
実際、これは市場の競争を制限し消費者の利益を損なう可能性が高いため、多くの国で独占禁止法によって規制されています。串岡さんは、この悪習に気づき正すべきだと考えたのです。
内部告発後の串岡さんへの仕打ち
昇進停止と隔離、30年近く続いた報復
正義をつらぬく者は嫌われがち。串岡さんが内部告発をした後、トナミ運輸は彼に対して厳しい報復措置を取りました。
まず昇進と昇給が完全に停止。同期の社員が次々と役職を上げていく中、串岡さんだけが取り残されていったのです。さらに、彼は他の社員から隔離された部屋に追いやられ、ほとんど雑務だけをこなす日々を強いられました。わかりやすいドラマのようなイジメ。
この状況は信じられないことに、30年近くも続いたのです。これに耐えたのがスゴいけど、この頃は転職とか一般的じゃなかったからかもしれませんね。
精神的苦痛と家族への影響
会社からの仕打ちは、串岡さんに大きな精神的苦痛をもたらしました。毎日、意味のない仕事を与えられ、周囲から孤立させられる状況は、マジ耐え難いものでしょう。
しかし、串岡さんはこの苦難を乗り越え、正義を貫く決意を固めました。家族も、昇進も昇給もできない串岡さんの闘いを支え続けました。
串岡さんの現在と裁判の結果
富山地裁での勝訴と賠償命令
串岡さんは、長年の不当な扱いに対して法的措置を取ることを決意します。そして2005年、富山地方裁判所で行われた裁判で串岡さんは勝訴。裁判所は、トナミ運輸による報復的な処遇を違法と認定し、同社に対して賠償金の支払いを命じたのです。
これ、20世紀なら勝てなかったかもしれません。2005年と言えば、レイザーラモンHGが「フォー!」と言っていた頃です。最終的に、時効分を除いた賃金格差分として約1356万円の支払いが命じられました。
内部告発者保護法制定への影響
串岡さんの闘いは、個人の勝利にとどまらず日本の労働環境や法制度にも大きな影響を与えました。この事件をきっかけに、内部告発者の保護の重要性が社会的に認識されるようになりました。
その結果、2006年に公益通報者保護法が施行され、内部告発者の権利を守る法的枠組みが整備されたのです。串岡さんの勇気ある行動は、日本の企業文化や法制度を変える一助となったといえるでしょう。もっとみんな串岡さんに感謝すべきじゃないでしょうか?
現在の串岡さん
串岡さんは、現在も公益通報者保護や内部告発者の権利向上に関する活動を続けています。2024年で78歳、高岡市在住です。
過去の有名な内部告発事件
エドワード・スノーデン事件
2013年6月、米国家安全保障局(NSA)の元職員エドワード・スノーデンが、NSAによる大規模な監視プログラムの存在を暴露しました。
彼は、NSAやCIAが対テロ捜査の名目で同盟国の要人や自国の一般市民を含む広範囲な通信情報を違法に収集していた実態を明らかにし、身をかわすためロシアに亡命しました。ハッキリ言ってHuawei製よりi-phoneの方が怖いと思います。
ペンタゴン文書事件
1971年、ダニエル・エルスバーグ氏がアメリカ政府のベトナム戦争に関する機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を公表しました。この内部告発は、アメリカのベトナム戦争政策失敗の実態を明らかにし、大きな波紋を呼びました。
ウォーターゲート事件
1972年に発生したこの事件は、内部告発者「ディープ・スロート」の存在で知られています。この内部告発によりニクソン政権による捜査妨害や証拠隠滅などの不正行為が明らかになり、最終的に大統領の辞任につながりました。
東芝不正会計問題
2015年に発覚したこの事件は、社員による内部告発がきっかけでした。その後の調査で800人以上の証言が集まり、日本の経済界を揺るがす大きな問題となりました。