親子2代で50年以上続いたシリアのアサド政権が崩壊。バッシャール・アル・アサド大統領がロシアに亡命し(逃げ)ました。一瞬「50年も!?」とか思ったけど、考えてみたら北のあの親子たちの方が長いですね。
発足当時に生まれた赤ちゃんが完全なおじさんになるほど長かった独裁体制から、一夜にして激変したシリア。反政府勢力が首都ダマスカスを制圧し、国民が浮かれる一方で新たな心配も湧き出ています。
アサド政権とは何だったのか。なぜ今、崩壊したのか。そして、シリアの未来はどうなるのか。中東の複雑な歴史と世界を巻き込んだ内戦の結末から、激動の時代を生きるシリアについてできるだけ簡単に書いてみます。
★ もくじ
シリアのアサド政権とは?独裁から崩壊までの50年
シリアってどこ?
そもそもシリアの場所ですが、レバノンの東、イラクの西という何かと騒がしい地域の真ん中くらいにあります。首都のダマスカスも、普通にしてれば歴史のある美しい街なんですけどね。
アサド政権が成立した背景
1920年のフランス・シリア戦争でシリアはフランスの統治下にありましたが、第二次大戦後の1946年に独立します。その後、約20年間にわたって保守派と革新派の対立や軍事クーデタなどのゴタゴタを繰り返していました。
そんな中、1963年にバアス党(アラブ社会主義復興党)が軍と手を組んでクーデターを成功させ、バアス党政権が成立。
しかしバアス党内でもアラブ民族主義者とシリア第一主義者の間で対立が生じ、この内輪もめの結果1970年のまたまたクーデター(ただし無血)でハーフィズ・アル=アサド(今のアサドの父)が全権を掌握しました。
そしてアサド(今のアサドの父)は翌年の国民投票で正式に大統領に選ばれ、権威主義体制を強化していきます。要は、国内で定期的に続くケンカに乗じて、アサド(今のアサドの父)は権力を握ることができたわけです。
政権の特徴
- 長期支配
50年以上続いたアサド親子による独裁政権。 - 抑圧的統治
アサド家は、シリアの少数派であるアラウィ派(イスラム教シーア派の一派)。政権内での主要なポストもほぼアラウィ派にして、多数派のスンニ派住民を抑えこんでいた - 暴力的弾圧
2011年の反政府デモに対し、軍や治安部隊を使って激しく弾圧。内戦中は自国民に対して無差別空爆を繰り返した - 人権侵害
内戦で30万6000人以上の民間人が死んで、そのうち約2万7000人が子どもだった。また、政治犯に対する拷問や殺害が大規模に行われた - 民主化の欠如
今回ロシアに逃げたバッシャール・アサド大統領(元)は、イギリスへの留学経験があったにもかかわらず、親父の独裁政権をしっかり引き継いで民主化は進まなかった
国民に嫌われたのは、こんな理由からです。
内戦勃発から政権崩壊へ
シリアの内戦は2011年「アラブの春」の影響を受けた民主化運動から始まりました。アラブの春ってのは、2010年末から2012年にかけてアラブ界隈で起こった大規模な民主化運動です。
この時、北アフリカのチュニジア、エジプト、リビアやアラビア半島のイエメンなどで長期独裁政権が崩壊。シリアも続こうぜ、と内戦になってしまいました。これ、なぜ「春」かというと、新しい時代の始まりや希望のイメージとして欧米メディアが付けたそうです。
で、シリア内戦は弾圧のヒドいアサド政権と、それにキレた反政府勢力との戦いです。アサド政権はロシアやイランの支援を受けて一時優勢でしたが、2024年11月末から反政府勢力が急速に反撃を強めます。
反政府軍は、わずか12日間で主要都市を次々と制圧、とうとう12月8日には首都ダマスカスを掌握しました。この急展開は、ロシアのウクライナ侵攻やヒズボラ(レバノン南部を拠点とするシーア派の組織)の弱体化でアサド政権への軍事支援しょぼくなったからと言われています。
結局、アサド大統領はロシアに亡命し、50年以上続いたアサド家の独裁政権は崩壊しました。
シリアの複雑な民族的事情
アラウィ派の政権vs.スンニ多数派
もともと少数なアラウィー派は非ムスリムだとみなされ、数百年にわたりスンニ派から差別され迫害を受けてきたわけです。さらにシリアの独立後はスンニ派エリートが政権を握り、アラウィー派を抑圧しました。
しかしその後、軍部とバアス党を通じてアラウィー派が権力を得ると、今度はアサド大統領のもとで逆にアラウィー派少数派が支配します。この変化に、スンニ派多数派が耐えられなかったということです。
ただ、この対立は単純な宗派対立というより、政治的・経済的要因が大きく影響しています。大抵の戦争の原因はコレです。
アメリカとロシア、2大国の介入
反政府チームvs.アサド政権チーム
反政府チームのバックには、アメリカを中心とする欧米諸国がいます。そしてアサド政権チームにはロシアとイランが支援を行なっています。ロシアは中東で影響力を広げたいのと、イランはシーア派の立場からアサド政権を支援、同時にこちらも影響力強化を図っています。
シリアの今後は?
今後は反政府勢力による平和的な政権移譲と国際社会からの承認が焦点となりますが、複雑な勢力図と国際関係によってシリアの安定化はまだまだ遠そう。人道的危機も深刻化しており、37万人以上の家が無い状態です。
ロシアの影響力は低下して駐留基地も存続危機になり、トランプ次期アメリカ大統領は、シリア情勢への不介入を主張。「アメリカは関わるべきではない」といきなり突き放す発言をしています。
なんか、世界の紛争・戦争の背後にはいつもアメリカがいますね。