
「ご近所さん」て、顔と名前を知ってて挨拶する間柄ならまだしも、冷静に考えてみれば自分のテリトリーにいる他人なわけで、不快に感じるのが普通なのかも。ふと、約20年前の奈良の引越しおばさんを思い出しました。
この「パーフェクトネイバー」事件は、子どもの遊び声を巡る苦情から始まって最終的に一人の母親が命を落とすという、非常にアメリカっぽい事件です。警察のボディカメラ映像が残っていたことで、衝撃度の強いドキュメンタリーになりました。
AJ・オーウェンズ殺害事件
事件の概要
2023年6月2日、フロリダ州オカラの住宅地で起きた発砲事件です。被害者は4人の子どもを育てていたAJ・オーウェンズという女性で、加害者は同じ地区に暮らすスーザン・ロリンツ。2人は友人だったわけでも、深い接点があったわけでもありません。
きっかけは、住宅の前にある共有スペースで遊ぶこどもたちの声がうるさいというご近所トラブル。最初は些細な苦情だったものが警察への通報を繰り返すうちにこじれていき、最終的には取り返しのつかない事態へと発展してしまいました。
このドキュメンタリーのタイトル「パーフェクトネイバー」は、加害者のロリンツが事件前に警察官へ自分のことをそう言い表していたことから付けられたもの。実にアメリカっぽい皮肉的な意味合いのタイトルです。
発端となったトラブルの内容
最初に警察が出動したのは、2022年2月25日。通報したのは加害者のロリンツで、自宅前の広場でボール遊びをしていたこどもたちを叱ったことが発端でした。
子どもたちの母親であるオーウェンズが警察の聞き取りに答えた際、ロリンツから人種を理由にした発言を受けたと話していたことも記録に残っています。結局、根っこはそこなんですかね。
警官はその場では双方の話を聞いて収めましたが、ロリンツはその後も通報を繰り返しました。住宅の前にある芝生は、アメリカの郊外住宅地によくある共有的なスペースで、フェンスなどで明確に区切られていないことが多い場所。
ロリンツは、そこを自分の「敷地」だと主張、こどもたちが不法侵入していると訴えていました。しかし周囲の他の住民からは特に苦情がなかったため、警官たちも対応に困っていたそうな。
さらにロリンツは、職場のゲートに自分のピックアップトラックを繰り返し衝突させるなど外の世界でもいわゆるトラブルメーカーだったらしい。なんか、日常からいろんなストレスを抱えていたことが想像できます。
事件当日
そして、2023年6月2日。この日、再び子どもを怒鳴られたことに腹を立て、オーウェンズは苦情を言うためロリンツの自宅のドアをノックします。直後、そのドアの内側からロリンツが扉越しに発砲。近所の家に設置されていたカメラがその一部を記録していました。
事件後、最終的にロリンツは第一級過失致死罪で有罪となり、懲役25年の判決が下されています。
ドキュメンタリー制作の背景
ギータ・ガンドビール監督の思い
このドキュメンタリーが制作された背景には、ギータ・ガンドビール監督の個人的な思いが関わっていました。というのも、被害者はガンドビール監督の義理の姉妹にとって親しい友人だったそうで。
自身もインタビューで、この作品をいわゆる「トゥルークライム的な娯楽作品」としては捉えていないと語っています。あくまで自分の身近な存在だった人たちに起きた出来事であり、悲しみと向き合うために作り上げた一本であると。
正当防衛法がもたらした影響
この事件で大きな論点となったのが、フロリダ州で採用されている「スタンド・ユア・グラウンド法」と呼ばれる正当防衛に関する法律。この法律は、身の危険を感じた場合に武器を使って対抗することを一定の条件下で認めるもので、2005年にフロリダ州で制定されました。
ロリンツは、取り調べの中で恐怖心から発砲したという趣旨の説明をしています。しかしドキュメンタリーで見るかぎり、実際に周囲へ恐怖を与えていたのはロリンツ側だったのではないかと。本人以外はそう見るのが多数なはず。
作品の終盤では、この法律が制定されてから銃による事件が増加しているというデータも示されており、制度そのものに一石を投じる内容になっています。撃ってもいい言い訳に使われちゃってるんですね。
銃の規制については、アメリカ最強の圧力団体である全米ライフル協会(NRA)による多額の政治献金が大きな要因と言われてますけど、結局は同国の国民個々人が所持を「身を守る当然の権利」として考えている、このひね曲がった価値観が一番大きいんじゃないでしょうか。
公開後の注目ポイント
「パーフェクトネイバー」は、2025年1月にサンダンス映画祭で初めて上映され、監督賞を受賞しました。その後、同年10月にアメリカの一部劇場で限定公開されたのち、Netflixでの世界配信が始まっています。
なおNetflixが配給権を取得した際、契約金の一部は被害者であるオーウェンズの母親パメラ・ディアスと遺された4人の子どもたちを支援する基金に充てられました。
